
生成AIが議事録作成から意思決定支援まで担う時代に、マネジャーの仕事はどう再定義されるのでしょうか。
リクルートワークス研究所のレポートでは、生成AIが及ぼす影響を ①業務効率化 ②意思決定支援 ③業務遂行支援 ④スキル可視化・最適配置 ⑤エンゲージメント支援 という5方向で整理しています【生成AIが変えるマネジャーの役割と業務】。
本ブログではこの内容をもとにして、人事が“今すぐ”手を打つべき3つのアクションを提案します。AIを“共同マネジャー”として社内に取り込み、組織パフォーマンスを最大化するヒントをご紹介します。
AIと人間の役割分担を理解する──“手を動かす”から“意味を与える”へ
生成AIの進歩は、マネジャーが抱えていた大量の定型業務を静かに肩代わりし始めました。たとえば議事録や企画書のドラフト作成、会議のファシリテーション、さらには判断材料となる情報収集やリスク・シミュレーションまで――こうした「情報をまとめ、提示する」プロセスはAIが短時間で高精度にこなせるようになっています。
同時に、メンバーの日常業務を裏側で支援し、スキルや経験をデータとして可視化し、最適なタレント配置を推薦するといった“組織のオペレーション層”もAIが担う領域へと移行しつつあります。
一方で、生成AIの台頭によってかえって存在感が際立つのが、人間ならではの「意味と動機づけを与える」仕事です。メンバー一人ひとりの個性・志向・状況をくみ取り、やる気を引き出す対話やフィードバック、そして変化の機会を提供し続けることは、依然としてマネジャー固有の役割として重要度が高まっています。加えて、大規模な例外対応や組織に関わる危機管理、文化を形づくるストーリーテリングなど、“人間的な判断”と“信頼”を要する場面も引き続きマネジャーの責務として残ります。
こうして見ると、これからのマネジメントは「AIが情報を整える → 人が意味づけし、関係性を編む」という二段構えへと再設計されると言えるでしょう。AIを“共同マネジャー”として受け入れつつ、人間はビジョン提示・動機づけ・関係構築・変化の推進にエネルギーを集中させる――これが、生成AI時代における新しい役割分担の全体像です。
人事部門が“今すぐ”着手すべき3つのアクション
生成AIが定型業務を引き受けた結果、マネジャーに残る本質的な仕事は「意味づけ」と「関係性の編み直し」だという全体像を確認しました。では、人事は具体的に何を動かせばよいのでしょうか。ここでは 評価・育成・制度 の3つのアクションを示します。
評価基準のアップデート──“実行力 × AI活用力”を測る
生成AIが業績データや行動ログをリアルタイムで整理し、シミュレーション結果まで提示できるようになると、従来の「成果数字+主観コメント」だけではマネジャーの真価を測り切れません。レポートでは、評価の焦点が個々人が役割を果たすために必要なスキルを持ち、日常的に学習とフィードバックを循環させているかへ移ると指摘しています。私たちはこれを「実行力」と「AI活用力」の掛け算として再定義します。意思決定をAIに委ねても、示された選択肢を咀嚼し、周囲を巻き込んで実行できるか――その総合力を評価指標に組み込みましょう。たとえば四半期ごとのOKRに「AIを活用した業務改善プロジェクト」の達成度を設定し、数値成果とコラボレーション行動の双方を可視化するといった方法が現実的です。
AIスキルの評価方法の詳細については、以前公開した記事「AIスキルの評価方法:あなたの会社でも始められる『人事評価 × AI活用』ガイド」に詳しくまとめていますので、関心のある方はぜひそちらもご覧ください。

育成プログラムの刷新──AI共創演習を管理職研修の核に
マネジャーが担うべきは「未来を描き、変化を促す力」へシフトするとレポートでも書かれています。そこで従来のケーススタディ中心の管理職研修を、AIとの共創演習に置き換えることを提案します。具体的には、生成AIをファシリテーターにしたオンライン会議シミュレーションや、AIが作成したリスクシナリオに対しチームで意思決定を下す研修が有効です。
制度とガバナンスの整備──プロジェクト型配置とAI倫理をセットで
プロジェクトベースで人材を動的に編成する働き方が標準化すると、組織と職務の境界は曖昧になります。人事はまず、社内メンバーのデータをAIで可視化し、スキル・志向に応じて短期プロジェクトへアサインする「社内マーケットプレイス」を制度化しましょう。その際に不可欠なのがAI倫理ガイドラインです。AIが生成した推薦結果や評価をどこまで信頼し、人間がどこで介在するのか――判断フローを明文化し、バイアス検知機能付きのツール導入とセットで運用ルールを定めることで、透明性と心理的安全性を両立できます。
生成AIを“共同マネジャー”として活かす鍵は、評価・育成・制度の3つを同じ歯車で回すことです。どれか一つでも置き去りにすると、AIが生む効率と人間が担う価値の釣り合いが崩れてしまう可能性があります。
まとめ――“共同マネジャー”時代の人事が握るハンドル
生成AIが情報処理の多くを代行し始めた現在、マネジャーの価値は「意味づけ」と「関係性の構築」に凝縮されつつあります。だからこそ、人事は 評価・育成・制度 の3つを一体で動かし、AIが生む効率と人間がもたらす創造性を両輪で回す設計者にならなければなりません。
まずは 実行力 × AI活用力 を指標に据え、マネジャー自身がAIと共創しながら成果を最大化できる環境を整えること。そして、AIと対話しながらビジョンを描く演習や、データに基づいてタレントを機動的に配置する仕組みを通じて、学習と実務の距離を限りなくゼロに近づけること。さらに、AI倫理ガイドラインで判断基準を透明化し、心理的安全性を担保すること――これらが揃って初めて、生成AIを“共同マネジャー”とする組織は実装段階へ進めます。
変革の規模は企業によって異なりますが、最初の一歩は小さくても構いません。OKRにAI活用プロジェクトを一つ組み込む、管理職研修にAIファシリテーションのモジュールを加える、タレントデータベースにAI推薦機能を試験導入する――いずれも明日から着手できるスタートラインです。テクノロジーの進化に組織文化が置き去りにされないよう、人事がハンドルを握り、AIと人間のベストミックスを模索し続ける必要があります。
この記事を書いた人

#AI活用人事 八百(やお)
2020年に新卒で株式会社フィードフォースにデータサイエンティストとして入社。自社プロダクトの成果改善のための分析業務に従事。その後、生成AIを活用した新規事業開発に携わるようになり、現在はAIを活用した求人原稿作成サービス「求人IQ」の開発を実施している。












